(3)ドリフトの種類 — ブレーキングドリフトとパワードリフトについて

ドリフトする車

前回はコーナーリング中のアンダーステアとオーバーステアについて説明しました。アンダーステアはコーナーリング中に前輪が滑りだす状態、オーバーステアは逆に後輪が滑りだす状態で、ドリフトはオーバーステアの状態です。

すなわち、ドリフトを行うためには、前輪よりも早く後輪を滑らせればいいということになります。これを行う主な方法は2通りあります。1つ目は前輪のグリップ力を上げる方法でブレーキングドリフトと呼ばれています。2つ目は後輪のグリップ力を落とす方法でパワードリフトと呼ばれています。

①ブレーキングドリフトとは

車はブレーキを踏むと下の図のように前輪に荷重がかかります。また、後輪の荷重は前輪に余計にかかった荷重の分だけ抜けるのです。

ブレーキングによる荷重移動

ステアリングで車を曲げているときにブレーキングを行うとどうなるでしょうか?前輪は荷重がかかってタイヤの摩擦力(グリップ力)が増えるので滑らないように踏ん張ります。これに対して後輪は荷重が抜けてグリップ力も減りますので、遠心力に負けたところで滑りだします。

これでオーバーステアになりました。めでたし、めでたし。と言いたいところですが、話はそう簡単ではありません。ブレーキを強く踏みすぎると前輪もロックしてしまい非常に危険です。また、また、前回も書いた通り、メーカーは車をアンダーステアよりに設定することが多いですし、そもそもブレーキング時に前輪荷重になることは、はじめから分かっていますので、後輪よりも前輪のブレーキの方が強くかかる設定になっています。そのような環境で、前輪をロックさせずに後輪が流れるようにするというのは、車がコーナリングできる限界に近い高いスピードが必要ですし、それに加えて、微妙なブレーキング操作が必要になります。また下手をすると車の設定と路面の状況によっては、いくら頑張ってもブレーキングドリフトができるポイントがないということもあり得ます。

ということで、ブレーキングドリフトは中級車から上級者のテクニックと言えるでしょう。

②パワードリフトとは

次に紹介するのは、後輪のグリップを無理やり落とす方法です。

本題に入る前に昔学校で習った静止摩力と動摩擦力について書きます。以下の図に示した通りですが、物を滑らせるために必要な静止摩擦力は、滑りだした後に必要な動摩擦力よりも大きくなります。逆を言えば、物は一旦滑り出してしまえば、比較的簡単に滑らせ続けることができます。

静止摩擦力と動摩擦力

さて、ここで車が左にコーナリングしている最中だとします。4輪とも滑らずにきちんと路面を捉えています。ここで、もし何かの「きっかけ」で後輪の2輪を滑り出させることができれば、そのまま滑り続けさせることはそう難しくないはずです。ドリフトを開始するときのこの「きっかけ」は、ドライバーの間では実際に「きっかけ」と呼ばれています。

「きっかけ」には色々な種類があり、一番単純なものはサイドブレーキを引くことです。サイドブレーキは後輪だけを止めますので、これは一番直接的なきっかけとなり得ます。ただし、これにはステアリングから片手を離して、サイドブレーキに力を入れて引くという動作が必要ですし、スピードが落ちるとグリップを回復してしまうという問題もあります。

それ自体は慣れればそう難しくはないですが、ここではもっと単純な方法を紹介します。

「ただ、アクセルを踏むだけ」です。

アクセルを踏んで後輪に駆動を伝え、前に進む力でタイヤを空転させてしまうのです。これはエンジンのパワーで無理やり後輪を空転させてドリフトすることから、パワードリフトと呼ばれています。

但し、頭が冴えている方は既に気付いたかもしれませんが、これができるのは後輪駆動の車だけです。前輪駆動の車はアクセルを踏んでも前輪に駆動が伝わってしまいますので、それで後輪のグリップを失わせることはできません。「ドリフト専用車」とか「ドリ車」という言葉がありますが、「ドリフト専用車」の重要な条件は、後輪駆動(※)であることです。

 

※車の駆動方式にはエンジンの搭載位置と駆動輪の位置によって、以下ようなものがあります。ここでドリフトに使われるのは、一般的にFR車です。ミッドシップやリアエンジン車でも出来ないことはないですが、重心が後ろにある車はコントールがしにくいのと、値段が高いスポーツカーが多いのとで、ドリフトの世界ではマイナーです。

  • FF・・・フロントエンジン・フロントドライブ(前エンジン・前輪駆動)
  • FR・・・フロントエンジン・リアドライブ(前エンジン・後輪駆動)
  • MR・・・ミッドエンジン・リアドライブ
  • RR・・・リアエンジン・リアドライブ

また、後輪駆動ならなんでもいいかというと残念ながらそうではありません。

LSD(リミテド・スリップ・デフ)といった部品がほぼ必修になってきます。これについては次の投稿で詳しく説明します。

パワードリフトは、車に必要な条件はありますが、なんといってもただアクセルを踏むだけでドリフトに持って行けるという手軽さがメリットです。ブレーキングドリフトは路面や車の状態に応じて微妙なコントロールが必要になり、初心者では難しいのに対して、パワードリフトは初心者でも練習すれば簡単にできるようになります。これをマスターするのがドリフトの第一歩と言えるでしょう。

まとめ

ここではブレーキングドリフトとパワードリフトの概要について説明しました。ブレーキングドリフトは中級者から上級者向けのテクニックですが、パワードリフトはコーナーリング中にただアクセルを踏むだけでドリフトができるため比較的簡単であり、初心者が最初に身に着けるべきテクニックです。但し、これを行うためにはLSDつきのFR車が必要になります。次回以降、ドリフトの仕組みをもう少し深く解明するとともにどんな装備がなぜ必要なのかといったことも明らかにしていきます。