(5)ドリフトの話題②・・・LSDとは

上から見たドリフト車

まえがき

前回はドリフトに関係する話題として摩擦円の話をしました。ここではドリフト関連の話題その②として、LSDの話をしたいと思います。

本文

皆さんはLSD(リミテッド・スリップ・デフ)とは何かご存じでしょうか? 「(3)ドリフトの種類 — ブレーキングドリフトとパワードリフトについて」のところで、少しだけ触れましたが、パワードリフトを行う車は、FRであることとLSDがついていることの二つがどうしても必要になります。ドリフト車の要件2つの内の1つという重要部品ですので、ここではその話をしたいと思います。

1)デフとは?

LSD(リミテッド・スリップ・デフ)とは、「デフ」の一種です。

デフはFR車の場合、下の図の赤で示した場所にある部品です。エンジンの回転力は、トランスミッションを経由して、プロペラシャフトに伝わります。プロペラシャフトの横方向の回転をドライブシャフトの縦方向の回転に変換してタイヤに伝えるのがデフの役割です。

デフの説明

ところが、単純に横回転を縦回転にするだけではうまく行きません。その理由を説明しましょう。

下の図は、車が旋回するときの内輪と外輪の軌道を示していますが、外輪の方が長い距離を移動していることが分かります。この図で言うと目分量ですが、外輪の円周:内輪の円周=4:3くらいでしょうか。ということは、外側のタイヤが4回転する間に内側のタイヤは3回転しかしないことになります。逆を言うと、デフが右のタイヤと左のタイヤに等しく回転を伝えてしまうと、外側のタイヤが4回転する間に内側のタイヤも4回転してしまいますので、1回転分は空転してしまうことにります。これではタイヤも減ってしまいすし、エンジンの出力の無駄使いにもなってしまいます。

内輪と外輪の軌道の違い

デフは、デファレンシャル・ギアの略で日本語でいうと差動装置です。この言葉の示す通り、デフは左右のドライブシャフト、すなわちタイヤの回転数に差を付けることができるようになっています。回りにくい方のタイヤの回転を減らして、回りやすい方のタイヤを回転させるようになっているのです。例えば両方のタイヤが毎秒5回転しているとします。この車が同じ速度で右カーブに入った場合、例えば左のタイヤの回転が毎秒5.1回転、右のタイヤが4.9回転といった形に変化できます。スピードが同じなら平均は変わらず毎秒5回転のままです。

どうやってそれを実現しているのかという説明は、長くなりますのでここでは割愛しますが、興味のある方は「デフ 動作 仕組み」等のキーワードで検索してみて下さい。ひょっとしてたら複数のサイトを見たり、最終的に動画を見たりしないと理解が難しいかもしれませんが、機械の世界の面白さを垣間見れると思います。

 

2)LSD(リミテッド・スリップ・デフ)とは

上述のようにスムーズな走りにはかかせないデフですが、実はあまり嬉しくない副作用が出てしまうことがあります。

車が泥の中などに入ってしまい、脱出できなくなってしまったことはありませんか? その時は、滑りやすい方の車輪だけが空転して、もう片方の車輪はほどんど回っていなかったはずです。「もう片方の車輪が回れば脱出できるのに」などと思った経験はないでしょうか? これはデフの機能で、例えば左右の車輪が毎秒3回転するようなエンジンスピードの場合、右3.2回転:左2.8回転のような分配もできますが、もし右の車輪だけが回り安かったりしたら、右6回転:左0回転といった分配になってしまうのです。

さて、それではでは、ドリフト走行にどのように影響してくるでしょうか? 実はノーマルの(LSDではない)デフで、パワードリフトをしようとするとうまく行きません。その状態をあらわしたのが以下の図です。

下の図は右に曲がりながらアクセルを踏んでいる車を後ろからみたところです。①で右に曲がると、②のように左にロールして(左に傾むいて)右の車輪の荷重が抜けます。この時にアクセルでパワーをかけると右の車輪は空転をはじめてしまいます。

ロールによる内輪スリップ(LSDなし)

さて、このとき、左の車輪はグリップしていますが駆動も伝っていません。ぬかるみに入ったときに片方の車輪はひたすら空転しますが、逆の車輪には駆動は伝わらないのと同じ状況です。デフによって回りやすい方の車輪を回そうとしますが、逆側の車輪の駆動は減らしてしまうのです。

ところで、パワードリフトは、パワーをかけて後輪を滑らせるものでした。ということは、滑らずにしっかりグリップしてしまっているタイヤがここにあるのは大きな邪魔になります。左側の車輪はしっかり地面をとらえていますので、ドリフト状態にはなりません。

そこで登場するのがLSD(リミテッド・スリップ・デフ)です。LSDはデフの一種ですので、デフの機能は持ちながらも、その機能を制限するものです。つまり、片方の車輪が空転した場合でも、もう片方の車輪を完全に切ってしまうのではなく、駆動が伝わるようにします。これによって、上の図のような状態でも左の車輪にも駆動が伝わるように工夫されています。これはレースで早く走るのにももちろん有利ですが、アクセルをたくさん踏むと左右両方の車輪をスリップさせることができるようになるため、パワードリフトができるようになるのです。

これが、パワードリフトにはFR、LSD付きの車が必要と言った理由です。

 

まとめ

ここではデフとは何か、またデフの一種であるLSDとは何かについて説明しました。LSDはデフの機能を持ちつつ両方の車輪に駆動が伝わるようにするもので、エンジンパワーで左右両方の後輪を空転させてオーバーステアにするパワードリフトには必要不可欠なものです。今回の記事で、ドリフト車=FR・LSD付の車という理由がお判りいただけたと思います。